スクリプト
Chapter 1 オープニング
皆さんこんにちは、ゲームデザイナーのためのポッドキャストへようこそ。今日は、ゲームのHUD、つまりヘッドアップディスプレイの設計についてお話しします。
HUDって、画面に表示されてるHPとか弾薬とかのことですよね。あれって結構目に入るけど、設計が難しいんですか?
実は、優れたHUD設計には逆説的な真理があるんです。「意識されないHUDこそ最高のHUD」と言われています。プレイヤーが情報を自然に受け取り、ゲームに集中できるのが理想なんですよ。
なるほど、意識させないって難しそうですね。具体的にはどうやって設計するんでしょう?
Chapter 2 HUD設計の5つの基本原則
HUD設計には5つの基本原則があります。まず1つ目は「クラリティ」、明瞭性です。HUDは常に表示されるので、一瞬で理解できなければいけません。
一瞬でってことは、パッと見てわかるデザインってことですね。
その通りです。例えば、最重要情報であるHPや弾薬は最も目立つ位置に配置する。赤は危険、緑は安全という直感的な色分けを使う。アイコンと数値を併用して、視覚情報と具体値を両立させるといった技法があります。
確かに、ほとんどのゲームでHPが減ると赤くなりますよね。2つ目は何ですか?
2つ目は「シンプリシティ」です。情報過多は認知負荷を高め、プレイの妨げになります。重要な判断基準があって、「この情報は5秒ごとに必要か?」と自問するんです。
5秒ごとに必要ない情報は削除する、と。結構シビアですね。
そうなんです。関連する状況でのみ表示する「コンテキスト依存表示」も有効です。武器を切り替えた時だけ弾薬の詳細を表示する、といった具合に。
常に全部表示する必要はないんですね。他の原則も教えてください。
3つ目は「コンシステンシー」、一貫性です。左上にはHP、右下にはミニマップ、といった配置を固定する。全てのクールダウンを同じ円形ゲージで表示する、といったルールを徹底します。
FPSなら中央下に弾薬、RPGなら左上にHP、っていうのも業界の暗黙のルールですよね。
まさにそうです。ジャンルの慣習を尊重することで、プレイヤーの学習コストを下げられます。4つ目は「カスタマイズ性」。プレイヤーごとに最適なUIは異なりますからね。
MMOとかだと、HUDをドラッグして好きな場所に動かせますよね。
その通りです。ただし面白いデータがあって、80パーセントのユーザーはカスタマイズしないんです。だからデフォルト設定を万人向けに最適化することが最重要なんですよ。
80パーセントがデフォルトのままってことは、初期設定がかなり大事なんですね。最後は何ですか?
5つ目は「アクセシビリティ」です。全てのプレイヤーが情報を受け取れる設計ですね。UIサイズを200パーセントまで拡大可能にする、色覚異常対応モードを用意する、音声フィードバックを併用するといった配慮が必要です。
Chapter 3 情報の優先度とゴールデンゾーン
原則はわかったんですけど、具体的にどこに何を置けばいいんでしょう?
情報の優先度マトリクスという考え方があります。最高優先度の情報、例えばHPや弾薬は画面端に常時表示。低優先度のレベルアップ通知は画面中央にポップアップで一時表示、といった使い分けです。
画面中央は重要なことに使いそうですけど、常時表示には使わないんですね。
そうです。画面中央を常時占有するのは実はアンチパターンなんです。クエストログが中央に常駐したり、通知が次々と出てくるのはプレイの妨げになります。緊急情報だけ中央に表示するのがベストです。
ゴールデンゾーンって言葉も出てきましたよね。それは何ですか?
ゴールデンゾーンは最重要情報を配置すべきエリアのことです。これがジャンルによって違うのが面白いんですよ。FPSなら画面中央下30パーセント、視線をあまり動かさず確認できる位置です。
FPSだと敵を見ながらHPも確認しないといけないですもんね。
その通りです。3人称アクションならキャラクター周辺、戦略ゲームなら俯瞰視点で自然な画面下部全体がゴールデンゾーンになります。HP確認から敵確認までの視線移動距離を最小化するのがポイントです。
Chapter 4 ダイジェティックUI:世界に溶け込むHUD
HUDってゲームの世界観と関係ない表示が多いイメージですけど、世界に溶け込ませる方法ってあるんですか?
いい質問ですね。「ダイジェティックUI」という技法があります。ゲーム世界に統合されたUI要素で、没入感を高めるんです。最も有名な例がDead Spaceですね。
Dead Spaceって、ホラーゲームですよね。どんなUIなんですか?
主人公のRIGスーツのバックライトでHPを表示し、銃の弾薬カウンターで残弾を見せるんです。完全にダイジェティックでありながら、瞬時に認識可能という見事な設計です。
キャラクターの装備で情報を見せるんですね。他にも例はありますか?
The Divisionでは、キャラクターの腕に装着されたスマートウォッチでスキル管理をします。現代軍事という世界観に完璧にマッチしていて、実際に腕時計を見るようなアニメーションも入っています。
かっこいいですね。でも、見にくくなったりしないんですか?
鋭い指摘です。ダイジェティックUIには注意点があって、美しいけど可読性が低くなりがちなんです。だから最重要情報は従来型表示モードをオプションで提供するのがベストプラクティスです。
Chapter 5 ミニマリストHUDと動的情報表示
最近のゲームって、HUDがすごくシンプルなものもありますよね。
ミニマリストHUDですね。Hollow Knightが良い例です。画面左上に小さなHPの仮面アイコンだけ表示して、ダメージ時のみ明滅させる。2Dアクションに集中できる視界を確保しています。
確かにHollow Knightって、画面がすっきりしてますよね。どのジャンルでも使えるんですか?
ジャンルによって使い分けが重要です。ホラーゲームでは情報を減らして不安を煽る、アドベンチャーでは風景を楽しませる、といった目的に合わせます。Journeyなんかはほぼ完全にHUDを消して、風景と体験に集中させていますね。
でも競技性の高いゲームだと情報が必要ですよね?
その通りです。そこで「動的情報密度調整」という技法が活きてきます。Halo Infiniteが好例で、探索中はミニマルHUD、戦闘中はフルHUD表示に自動で切り替わるんです。
状況に応じて変わるんですね。それってプレイヤーが混乱しないんですか?
トランジション設計がポイントです。状態変化時に0.3から0.5秒かけて自然にフェードイン・アウトする。戦闘BGM開始とHUD展開を同期させるといった工夫で、違和感なく切り替わります。
Chapter 6 成功事例:OverwatchとDestiny 2
マルチプレイヤーゲームだと、味方の情報も表示しないといけないですよね。どう設計するんですか?
Overwatchの設計が参考になります。画面上部に味方全員のHP・アルティメット状況を表示し、自分のアルティメートゲージは画面中央下で大きく表示する。チーム連携に必須の情報を即座に把握できるんです。
タンクとかDPSとかで色が違いますよね。
そうです、ロールごとに色分けしています。さらに敵のアルティメート使用は音声・画面中央警告で通知する。音声・視覚・テキストの多重フィードバックで、情報を見逃さない設計になっています。
FPSだとダメージの方向を示すインジケーターがありますよね。あれも面白い設計だと思うんですけど。
Destiny 2のダメージインジケーターは素晴らしい例です。画面中央のレティクル周辺に3次元的なダメージ方向を表示する。上下からの攻撃も表現可能で、強攻撃は大きく、弱攻撃は小さく表示するんです。
レティクルの近くに配置してるから、視線を動かさなくていいんですね。
まさにそうです。視線の自然な動線を考慮した配置と、情報の強弱を表現するサイズ・色・持続時間の設計。この2つがポイントです。
Chapter 7 避けるべきアンチパターン
逆に、やっちゃいけないHUD設計ってあるんですか?
いくつかのアンチパターンがあります。まず「情報過多HUD」。画面の30パーセント以上をHUDが占有すると、プレイヤーはどこを見ればいいか迷い、美しい環境グラフィックも隠れてしまいます。
30パーセント以上は多すぎると。どう対策するんですか?
全要素をリスト化して優先度を付け、下位50パーセントを削除か統合する。「このHUD要素がなかったらゲームは成立しないか?」と自問するのが効果的です。
他にはどんなアンチパターンがありますか?
「視認性の低いHUD」も危険です。背景によっては文字が読めない、色覚異常者が情報を区別できない、といった問題です。テキストに黒縁やドロップシャドウを追加し、コントラスト比を必ずチェックしましょう。
色覚異常シミュレーターでテストするって話もありましたよね。
そうです。Sim Daltonismなどのツールでテストすることが推奨されています。あと、「ダイジェティックUIの過剰適用」も注意が必要です。視認性が悪いのに無理にダイジェティック化するのは本末転倒ですからね。
Chapter 8 クロージング
さて、今日のポイントをまとめましょう。HUD設計は「Less is More」、疑わしきは削除が基本です。そして「Context is King」、状況に応じて情報を出し分けることが重要です。
優れたHUDは意識されない、というのが印象的でした。
まさにそうです。そして大切なのは、開発者の直感ではなく実際のプレイヤーの行動データで判断すること。プレイテストで「どこを見ていいかわからない」という声が出たら、それは設計を見直すサインです。
アクセシビリティも必須でしたよね。全てのプレイヤーに情報が届く設計。
「Accessibility is Not Optional」、これは今の時代の標準です。皆さんもぜひ、今日お話しした5つの原則を念頭に置いて、プレイヤーが自然に情報を受け取れるHUDを設計してみてください。
今日はHUD設計の奥深さがよくわかりました。リスナーの皆さんも、普段遊んでいるゲームのHUDを意識して見てみると面白いかもしれませんね。
それでは、また次回のエピソードでお会いしましょう。さようなら。
さようなら!